皆さんこんにちは、シロネコ書房(@shironeko_shobo)です。
政治や経済などの小難しい話について問われた時に、「知らない」というのは恥ずかしい……。しかし、知ったかぶりで調子を合わせていたら、さらに深く追及されて結局恥をかいてしまった……なんて経験が、誰しも1度はあるのではないでしょうか。
しかし安心してください。そうした心の傾向は人間なら誰しも持っているものです。自分の無知さを人前に晒すのって、とても勇気の要ることですからね。
ただ、それも度が過ぎると滑稽なだけです。
それを示すために、冒頭の質問の角度を少し変えてみましょう。
「現在の日本の政治についてのあなたの理解度は、世間の人々と比べてどの程度だと思いますか?」
実はこのような質問をされたとき、大抵の人間は自分の能力を実際よりも高く評価してしまうことが分かっています。
しかも、この傾向は能力が低い人間ほど顕著になるのです。
今回は、このような「愚か者ほど自信に満ち溢れる」という不思議な心の現象、「ダニング・クルーガー効果」についてお話ししていこうと思います。
目次
愚か者ほど自信満々!?

人は自分が知らなかったり不得意である分野について問われたとき、なかなか素直に「知らない」と答えることが出来ません。
「知らない」ことを恥ずかしいと思ったり、単に「知らない」と答えるだけではつまらないと妙なサービス精神を働かせてしまうのです。
しかし中には、本当は知らないことなのにも関わらず、自信満々に「嘘の知識」を答える人もいます。
……と、こんな風に。
(ハネムーン症候群は、腕枕などで長時間腕を圧迫すると、神経がマヒしてその部分がまるでゴムの塊のようになってしまう現象です)
この不可思議な現象について研究を行ったのが、ダニングとクルーガー(1999)という二人の心理学者です。
彼らは以下の二つの実験によって、なぜこのような心の働きが生まれるのかを調査しました。
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ダニングとクルーガーの実験
実験1:ユーモアセンスの調査実験
ユーモアは、生み出すにしても理解するにしても高度な能力が必要である。
65名の大学生に30個のジョークを見せ、それぞれに点数をつけてもらう。これによって、各々のユーモアの理解度をテストする。
その後、「あなたのユーモアの理解度は世間においてどの程度に位置しているか」という質問をした。
その結果、理解度テストの成績が下位25%以内の学生でも、「上位40%程度にいる」と自分を過大評価していることが分かった。
しかし逆に、上位25%の学生は「上位30%」と自らを過小評価していた。
結果の相関関係を表すと、下の図のようになる。

このグラフからは、約7割もの人が実力以上に自分を評価していることが分かる。
実際の順位が100番の人でさえ、自分は真ん中よりも上にいると評価していたのだ。
実験2:専門知識の質問実験
この実験では、被験者に対して様々な専門用語について問い、その意味を知っているかどうかを調査した。
用意された用語には、物理、政治などの分野で実際に使用されるもののほか、「視差板」「超脂質」といった実際には存在しない用語も9個含まれていた。
しかし実験の結果、約90%の人がその架空の用語に対し、少なくとも1つを知っている、聞いたことがあると回答した。
また、「自分は物知りだ」という自信にあふれている人ほど「(架空の用語を)知っている」と答える傾向が高いことが確認された。
これらの実験から、ダニングとクルーガーは「能力の低い人間ほど自分の能力を高く評価する」という傾向を発見しました。
この傾向は、発見者である彼らの名前をとって、「ダニング・クルーガー効果」と呼ばれています。
ダニング・クルーガー効果
能力の低い人間ほど自分の能力を高く評価する。
このような傾向が生じることについて、ダニエルとクルーガーは次のように分析しています。
能力が低い人は、それ故に自分のレベルを正しく評価することが出来ない。
それ故に、自分の能力がどの程度劣っているのかも分からなければ、他人の力量を正しく測ることもできない。
なるほど……。確かにこうなると、たとえ自分が間違ったことを言ってもそれに気づきませんし、確かな知識を持った人の発言に耳を貸さなくなってしまったとしても不思議ではありません。
でもこれって、考えてみれば当たり前のことですよね。
「自分が間違った解答をしている」ということに気付くためには、「この解答は間違いである」という知識を有している必要があります。その知識があれば、そもそも「間違った解答」をしようなんて思いもしないのです。
能力のない人にはそれが無いからこそ、自らの能力を客観的に評価できず、楽観的に己を高く評価してしまう……。
要するに「『知らないこと』を知らない」ことで、過剰なほどの自信が湧いてきてしまう、ということなんですね。
これが、ダニング・クルーガー効果に陥ってしまう人間の心理という訳です。
しかし、能力が劣っていたとしても、それを負い目に感じることなく、反対に自信に満ち溢れた態度をとってしまうだなんて、人間ってとても愚かで面白い生き物ですよね。
ダニングとクルーガーは、こうした心の傾向は以下のグラフのように表せると言います。
このグラフからは、ある分野の素人は、その道の専門家以上に自信を持ってしまうということが分かります。なんて不遜な……。
「何も考えない方が人生は楽しい」なんて時々言われたりしますが、単純に「自信たっぷりの」人生を送りたいなら、確かに何にも知らずに生きていた方がお気楽なのかもしれませんね……ハハ。
ちなみに、ダニングとクルーガーのこの研究は高く評価され、2000年にイグノーベル心理学賞を受賞しています。
「無知なる自信」に陥らないために

ダニング・クルーガー効果に陥ってしまった人間は、自分の無知を知らないことで、過剰な自信に支配されてしまったり、他人に対して思いあがった態度をとってしまうことがあります。
本人はそれで正しいと思っているのでしょうが、傍から見ればその様子は滑稽なだけです。
こうした話が出ると、「そういうやついるよね!何にも知らないくせに自信だけはあるやつ!」とニコニコ顔で話す人がいますが、いやいや、あなただって例外ではないんですよ!
森羅万象に通じている人間なんていませんからね。誰でも不得意な分野の1つや2つは必ずあります。
つまり、どんな人間だってダニング・クルーガー効果に陥る可能性があるということです。うわぁ、怖い!
では、そのような恐ろしい心の作用から逃れるには、一体どうすればいいのでしょうか。
ダニング・クルーガー効果から逃れる方法
無知を恥じない
ダニング・クルーガー効果は、「自分は無知である」ということを知らない、認めないというところから始まります。
しかし逆を言えば、「自分はまだまだ何も知らない」と自らの無知を認めることで、その罠から抜け出すことが出来るということです。
知らないことは罪ではありません。むしろ積極的に自覚することで、新しい知識と経験の扉を開く鍵となります。
自分の能力が劣っていることを認識することも、能力の高い人間になるために必要なことなんですよ!
学び続ける
無知は自覚するだけでは意味がありません。意識を大切に、常に学び続ける姿勢が大切です。
何事も学んでいるうちに奥深さが分かるようになり、同時に己の浅学さを知ることになります。
それがまた、ダニング・クルーガー効果からあなたを救ってくれることになるのです。
結論を急がない
先ほど紹介した、経験と自信の相関関係を表すグラフによれば、ダニング・クルーガー効果に最も陥りやすいのは、ある領域について無知、もしくは学び始めの時期です。
この時期に出した結論は、その是非にかかわらず、過剰な自信に溢れたものとなる可能性が高くなってしまいます。
何に対しても素早くさっさと結論を出す人は、本当に有能な場合もありますが、ただただ自信過剰なだけだということも多いのです。
これを防ぐためには、安易に結論を出さずに、しっかりと考え抜くことが大切になってきます。
決断は慎重に、ゆっくりと時間をかけて。
熟考に熟考を重ねた結論に対しても、「これってホントに正しいのかな?」と懐疑的になるくらいがちょうどいいと言えるでしょう。
その道の専門家でもない限り、衝動的に出した答えというものは「自信あって根拠なし」なものになりやすいということを覚えておきましょう。
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まとめ
ダニング・クルーガー効果は、私たちの誰もが陥いる可能性のある身近な心理現象です。
しかしそれ故に、自覚できている人というのもほとんどいません。
根拠のない自信を振りかざして、良く知りもしない知識をひけらかす人が世の中には沢山いるのです。
(傍で聞いている人に心の中で笑われているとも知らずに……)
特にこの情報過多社会、人々は簡単な結論や情報に流されやすくなってしまっていますからね。それがまた拍車をかけていると言えましょう。
※詳しくはこちら


ただ、友人との会話で知ったかぶりをして赤っ恥をかく……なんてのは可愛いものだとしても、他人に情報を伝える立場の人間がこの効果に陥ってしまうのはとても危険です。
なぜなら、中途半端な情報を衝動的に発信することは、世に誤った情報を拡散してしまうことに繋がるかもしれないからです。
テレビやラジオ、新聞といったマスメディアから、ブログやTwitterといった個人メディアまで、情報の発信者となる人は特に注意しなければならない現象、それがダニング・クルーガー効果なんです。
信用を失うような事態を招かないためにも、良く知らない分野に対しては、自分が「劣っている」ことを真摯に受け止めるようにしましょう
そして結論を出すうえでは、良く学び、よく考え、慎重な決断を下すことが大切なのだということを、どうか覚えていてください。
そんなこんなで、今回はここまで。
ではでは、またまた!
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