【権威への服従】上司に「老人どもから金を巻き上げてこい」と言われたら、あなたはどうしますか?

上からの命令

みなさんこんにちは、シロネコ書房(@shironeko_shobo)です。

 

会社の上司って、部下からするとイヤな存在ですよね。

理不尽な命令に、高圧的な態度、セクハラ、パワハラに、聞いてもいない昔の自慢話……。

もちろんすべての上司がそうだとは言いませんが、往々にして、彼らは私たちの気を滅入らせる達人と化します。

 

ただ、私たちも会社に属する社会人。組織に身を置く者として、上司に逆らうことはできません。

しかし、もしも上司が「老人どもから金巻き上げてこい」と命令をしてきたら、あなたは従いますか?

「知識もないから良いカモだよ。適当に「お得です!」とか言って高額商品買わせて来い」と、詐欺まがいな営業を指示してきたら……。

 

断言しますが、あなたはその命令を簡単に断ることはできません。

なぜなら、人は権威のある人間の命令に逆らうことが出来ないからです。

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「権威」に踊らされる人々

私たちは、上司や先生、専門家など、権威ある人間の発言を簡単に信じてしまう傾向があります。

権威者の発言には正当性があり、従った方がこちらとしても得な部分が多いと考えて、当然のように耳を傾けてしまうのです。

 

しかし、その発言が明らかにでたらめなものであったとしても、強い権威には逆らうことが出来ません。

たとえ彼らが非倫理的な命令を下してきたとしても、私たちは二つ返事で従ってしまうのです。

それを証明する実験が、心理学者スタンレー・ミルグラムが行った「ミルグラムの服従実験(アイヒマン実験)」(1963)です。

 

ミルグラムの服従実験(アイヒマン実験)

ミルグラムの服従実験は、1963年にアメリカの社会心理学会誌『Journal of Abnormal and Social Psychology』に初めて掲載され、その衝撃的な内容に当時大変話題となりました。

以下が、実験の概要です。

(長ったらしくて読んでられない!という方のために、概要の下に動画も用意してあります)

 

ミルグラムの服従実験(アイヒマン実験)の概要

実験前の状況

実験の協力者は「人間の記憶に関する実験」の参加者として、20~50代の男性を対象に募集が行われた。

実験当日、協力者はイェール大学に集められたが、その顔ぶれは小学校中退者から博士号保持者までと様々であった。

実験協力者は「この実験は『学習における罰の効果』を測定するもので、生徒役教師役の2人一組で行われる」と説明され、くじ引きでそれぞれの役に分けられた。

しかし、実際は生徒役の人間は全て役者が演じるサクラであり、真の被験者達が教師役になるように、くじにはあらかじめ細工が施されていた。(くじには全て『教師』と書かれており、サクラはくじを見るふりをして「私は生徒役だ」と宣言した。)

 

実験の前提

最初に教師役(被験者)と生徒役は別々の部屋に分けられ、インターフォンを通じてお互いの声のみが聞こえる状況に置かれる。また、実験の監督者(権威ありげな白衣を着た男)は教師役と同じ部屋にいて、実験の進行を教師役に指示する。

この実験は、教師役生徒役に記憶力を試す問題を出し、正解ならば次の問題へ、不正解ならば罰として生徒役に電気ショックを与え、その後は1問間違えるごとに15ボルトずつ電圧をあげていく』という一連の流れを繰り返すことで進行する。

電気ショックは教師役自身がスイッチを操作することで与えられる。

電気ショックの強さは15ボルト~450ボルトまであり、スイッチの下には

・75ボルト  “MODERATE SHOCK” (中度の衝撃)

・255ボルト “INTENSE SHOCK” (激しい衝撃)

・375ボルト “DANGER SEVERE SHOCK” (危険で苛烈な衝撃)

等の、該当する電気ショックの強さと痛みを示す表示がされている。

 

実験の様子

実験が開始してしばらくすると、生徒役は間違った答えを連発するようになった(もちろんわざと)。

それに伴い、教師役の被験者は罰として電気ショックを与え、その強さを15ボルトずつ上げていった。

電圧が高くなるにつれ、インターフォンからは電気ショックを与えられた生徒役の苦悶の声が聞こえるようになった。。もちろん、実際には生徒役(サクラ)には電気ショックを与えるための電極はつけられておらず、生徒役の演技による「苦痛の声」が聞こえてくるだけである。

その程度は、『135ボルトになると、うめき声をあげる』、『150ボルトになると、絶叫する』、『300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める』など決まった内容ではあったものの、電圧が高くなる後半は、まるで実際に拷問を受けているかのようなリアリティーがあった。

教師役の被験者は、生徒役が苦しそうな声を上げだしたころから実験の遂行に迷いを見せ始めるが、監督者は毅然とした態度で「続けてください」と被験者に続行を促した。

生徒役「もうやめてくれ!」と叫ぶようになると、被験者もさすがに実験の内容に疑問を覚えて、監督者に実験の即時停止を求めるようになる。

しかし、監督者はそれでもなお、感情を乱さない超然とした態度で「あなたにしかできないのです。」「責任は私たちがとります。」等の言葉をかけ、実験の続行を促し続けた。

4度目の通告後にも依然として被験者が実験の中止を希望した場合にのみ実験は中止された。

そうならなかった場合、教師役の被験者は、電圧が330ボルトを超えて生徒役が無反応になってもなお電気ショックを与え続け、それは最大電圧の450ボルトが3度続けて流されるまで続けられた。

実験の結果

驚くべきことに教師役となった被験者の62.5%(40人中25人)が、最大電圧の450ボルトの電気ショックを生徒役に与えるまでスイッチを操作し続けた。

また、中止した被験者を含めても、300ボルト以前の電圧で中止を求めた者はいなかった。

※時間がない人のための動画(TBS サンデーモーニング内「風を読む」 2012年11月4日放送回 より。実験については4:00~5:40 )

以上が実験の概要となります。

にわかには信じがたいことですが、実験に参加した内の約6割もの人が、「電気ショックを与え続けろ」という監督者の指示に最後まで従ってしまったのです。

また、生徒役が電気ショックの痛みに絶叫してもなお、被験者の全員が300ボルトまではスイッチを操作し続けたという事実にも驚愕です。

この結果からは、『人間は自分より権威のある人に屈してしまうことがあり、状況によってはどんな反道徳的なこともしてしまうということが分かります。

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ナチス党員 ルドルフ・アイヒマン

ミルグラムの服従実験は別名「アイヒマン実験」とも呼ばれていますが、この名称はナチス親衛隊のルドルフ・アイヒマンからきています。

ナチス全盛のころ、アイヒマンはユダヤ人を強制収容所へと連行する責任者でした。

結果として何百万人ものユダヤ人殺害を主導したアイヒマンですが、しかし、敗戦後の裁判では一貫して「ただ上からの命令に従っただけだ」と繰り返したのです。

また、逮捕前には花屋で妻への結婚記念日に贈る花を購入するなど、その姿は血も涙もない冷徹な大量殺戮者とは程遠いものでした。

彼は、史上まれにみる大量虐殺の主導者という点を除けば、極めて凡庸な小役人にすぎなかったのです。

 

このことから「アイヒマン他、多くの戦争犯罪を犯したナチスの党員は、皆もともと残虐な心の持ち主だったのか。それとも、妻との結婚記念日に花を贈るような平凡な一般市民が、特殊な条件下の元ではあのような残虐な行為を犯すものなのか」という疑問が呈されました。

それを確かめるために行われたのが、上記の「ミルグラムの服従実験」です。そのため、この実験は別名「アイヒマン実験」と呼ばれています。

 

誰もが殺戮者になりえる

あなたも悪人?

アイヒマン実験からは、一定の条件下の元では、普通の一般市民でも倫理を無視した非人道的な行いをしてしまうことが証明されました。

つまり、誰もがアイヒマンのような殺戮者になる可能性があることが示されたのです。

 

人は、社会や会社などの上下関係構造の中に入ってしまうと、上からの命令に従い、与えられた役割を果たさなければならないと考えてしまいます。

権威の力を信じて、たとえその命令が常軌を逸しているものであったとしても、「命令だから」と容易く実行してしまうのです。

 

その原因となるのは、権威への安易な服従です。

「自分は権威者の代理人であって、責任はない」という心が、あらゆる残虐非道な行いを実行可能にしてしまうのです。

言わば善悪の思考停止状態

モラルや自らの判断基準など、そこには存在していないのです。

 

これを防ぐためには、「自分の頭で考えることが大切になってきます。

「権威者の言うことだから」とむやみやたらに信用したりせず、自分の価値観で物事を判断することで、権威への服従から逃れることが出来るのです。

それを怠り続けてしまうと、いつの日かあなたも、知らず知らずのうちにアイヒマンのような「悪の代理人」になっているかもしれませんよ?

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見せかけの権威に注意

権威への服従には十分注意しなければならないことをここまで述べてきましたが、やっかいなことに、その権威は「見せかけ」だけで十分通用してしまうことが実験から明らかになっています。

 

例えば、高級なスーツをビシッと着て、何百万もする腕時計をし、胸元には意匠を凝らした(所属する組織を示すための)バッジを付けた好青年風の男がいたとしましょう。

彼は、あなたの会社に経営コンサルタントとしてやってきました。そのいかにもヤリ手な風貌に、上層部も期待大といった感じです。

彼は自らの輝かしい過去の実績を話した後、あなたの会社の経営に関してあれやこれやとアドバイスをしてくれました。あなたの上司もフムフムと興味深げに話を聞いています。

その後、あなたの会社は彼の言葉通りに経営の舵を切り、大幅な組織改革なども行いました。

しかし、結果はボロボロ。業績は改善するどころか、どんどん下落していきます。

これは一体どうしたことかと、コンサルの彼に連絡を取ろうとするも行方は知れず……。支払った数十万の報酬も返っては来ません。

実は、彼は一流の詐欺師で、所属する会社も実在しない架空のモノでした。過去の実績などもちろんでっち上げです。

しかし、あなたの上司や上層部は、彼の服装や装飾品から「権威」を感じ取り、その言葉を疑うことなく受け入れてしまったのです。

 

このように、権威はそれらしい服装や肩書などに簡単に付属し、時に私たちを欺くための仮面となります。

それが見せかけの権威かどうかを見抜くのはとても難しいことですが、ここで大事になってくるのも、やはり「自らの頭で考える」ことです。

 

例で挙げた会社は、いかにも権威のありそうな男(詐欺師)の言葉を鵜呑みにしまったことで経営が傾いてしまいました。

上司が自分の頭で考えることをやめていなければ、そんな事態にもならなかったでしょう。いくらこの詐欺師が有能でも、すこしくらい「ん?おかしいぞ?」と思う部分はあったでしょうから。

 

まとめ

ここで冒頭の質問をもう一度。

もしも上司が「老人どもから金巻き上げてこい」と命令をしてきたら、あなたは従いますか?

最初は「そんな悪いことやるわけないでしょ」と笑っていたあなたも、どうですか?もう簡単に否定できなくなっているんじゃないですか?

 

「思考停止に陥ると、平凡な人間が残虐な行為に走る」

これは、アイヒマンの裁判を傍聴していた女性哲学者、アーレントが後に述べた言葉です。

また彼女は、ヒトラーのような「本物の悪」は一握りしか存在せず、その他多くの悪は思考停止した凡人が作るとして、悪の陳腐さ」「悪の凡庸さという言葉を作りました。

それほど、誰もが簡単に「権威への服従」を入り口として、アイヒマンのような残虐な悪人になってしまうということなのです。

 

上司に言われたからと、老人に詐欺まがいな営業をかけるのもそれと同じです。

そうならないために、あなた自身が悪の片棒を担ぐことの無いように、どうか自分の頭で善悪の判断をすることを忘れないでください。

 

悪人への片道切符は、知らず知らずのうちにあなたの手に握られているかもしれないのです。

 

【参考】

・碓井 真史 著『よくわかる人間関係の心理学 史上最強図解』 P144 「命令されれば、人は残酷になれる」
・藤本 忠明 編『ワークショップ 人間関係の心理学』P75
・渋谷 昌三 著『面白いほどよくわかる!心理学の本』 P24
・Wikipedia 『ミルグラム実験
・しらべぇ 『世界を震撼させた驚愕の心理戦『ミルグラム実験』とは』 2016/02/27
・NHK解説委員室 『視点・論点 「ハンナ・アーレントと”悪の凡庸さ”」

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ABOUTこの記事をかいた人

シロネコ書房

物語とコーヒーが好きな一般成猫。横浜市の隅っこで暮らしています。人の「心」について興味を持ち、日々、ふむふむと勉強中。 このブログでは、これまでに学んだ「毎日を生きやすく、楽しく暮らす」ための心のノウハウを、Life Hack(ライフハック)ならぬ「Cocoro Hack(ココロハック)」と称して紹介していきます。