日常の些細なお願い事から、ビジネスでのセールストークに、出世をかけたプレゼンまで、人生には誰かを説得するシーンが溢れています。
ただ、説得とは自分の言葉で誰かの心や態度を変えることであり、いつもそう易々と成し遂げられることではありません。
では、一体どうすれば効果的な説得を行うことが出来るようになるのでしょうか。
今回は、そんな人の心を納得させる心理テクニックについて書いていこうと思います。
目次
心を動かす説得術

説得とは、「言葉や文章によって、相手の考え方や行動を変化させること」を指します。
つまり、説得とは相手の心を動かすことなのです。そのため、無理やりに自分の考えを押し付けたり、行動を強要することは説得とは呼べません。
説得のための段階的コミュニケーション
説得には、段階を踏んだコミュニケーションが必要となります。
具体的には、①注意 ②理解 ③受容 という3つのプロセスを経ることになります。
まず注意の段階では、相手に説得内容に注目してもらう必要があります。説得をしたくても、相手が耳を傾けてくれなければ何も始めることが出来ません。どうにかして相手に興味を持ってもらうことが、説得の大事な第一歩なのです。
次の理解の段階では、話の内容を相手に正しく理解してもらいます。ここでの話し方や、話の内容、構成によって、説得の成功率が大きく変わります。話し手の力量が問われる、説得の中心的な段階です。
最後の受容は、相手が説得内容を受け入れる段階です。聞き手が話の内容を吟味し、納得して初めてこの段階に至ります。
言わずもがなな気もしますが、説得のプロセスにおいて特に重要なのは②の理解です。
③の受容に至るための効果的な話を構成することが、説得を成功させるための肝となります。
説得の基本

効果的な説得を行うためには、以下の3つの「説得の基本」を押さえておく必要があります。
説得内容は分かりやすく
まず、説得の内容がきちんと整理されていて、分かりやすくまとまっていることが大切です。
ごちゃごちゃして分かりにくい内容では、説得に応じてもらえないばかりか、全てを話し終える前に興味を失われてしまいます。事前にしっかり準備をして、伝えるメッセージに明確な結論を入れるなど、相手にとって理解しやすい話を用意しておきましょう。
また、人間にはシンプルな物事を正しいと思い込む心理傾向がありますから、話は少しでも短く、かつ単純な内容にした方がより説得力が高まります。
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「私にもできる!」と思わせる
次に、説得の内容に対して「私にもできる!」という気持ち(自己効力感という)を相手に抱かせることが大切です。
毎日の生活だけで精いっぱいだという人に高級腕時計を勧めても相手にしてもらえません。それならば「とても安くて、しかし高級感あふれるデザインの時計がありますよ!」と勧めたほうが相手の興味を引けます。
無理難題を押し付けるのではなく、相手の可能な範囲でお願いをすることが大事なのです。
望ましい結果が得られることを示す
「説得内容を採用すれば、あなたにとって望ましい結果が訪れますよ」ということを示すのも効果的です。
その行動をとることでどんな好ましい結果を得られるかを相手に理解させることは、説得力の向上につながります。。
そのためには、行動の意志⇒行為⇒結果を得る、という進行過程を順を追って説明し、相手に具体的なイメージを抱かせることが大切です。
“専門性”と“信頼性”
ここまでにお話ししてきた説得の基本を踏まえて、ここからは更に説得の効果を高める要素を紹介しましょう。
ホヴラントとワイス(1951)、またチャルディーニ(1988)は、説得効果を高める説得者の要因として「専門性」と「信頼性」を挙げています。
専門性
ある分野で専門家と言われている人の発言は、専門的な知識に裏づけされたものとして説得力を持ちます。
テレビCMに著名な学者が起用されたり、本や映画の推薦文にその道の専門家のコメントが載っているのもそうした理由からです。
ただし、その人が専門家として認知されていなければ効果はありません。専門的な知識を持っていることを資格や経歴で明かしたり、肩書を示す必要があります。
一般人が「私は○○の専門家です!」と主張しても、それを証明するものがなければ“自称”専門家で終わってしまい、意味がありません。
しかし、「○○先生もこう言ってるから」と、著名人の名前やその人の研究内容、発言を借りることで、話に説得力を持たせることは可能です。
信頼性
説得者が聞き手から信頼されている人物であることも重要です。
話し手が日ごろから嘘をつくような人物であったり、自分の利益だけを考えいることが見え見えな説得内容では、効果的な説得を行うことはできません。
あくまでも誠実に、「あなたのためを思って話をしているんだ」という姿勢を示すことが大切です。
また、話の内容に客観的な事実や、統計データ等明確な数字を用いると、話の内容に信憑性を持たせることが出来ます。
好意
その他に、聞き手から好意を抱かれている場合にも説得は成功しやすくなります。
同じ説得の仕方でも、十年来の親友や恋人に説得されると、人はその内容を受け入れやすくなってしまいます。
「あなたがそう言うなら……」「他でもないお前がそう勧めるなら……」という言葉は、長い年月によって積み重なった信頼や好意があってこそ生まれるものなのです。
常日頃から、人に信頼されるような、好かれるような立ち振る舞いをしておくと、いざという時に自分のお願いを受け入れてもらいやすくなります。
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説得力のある情報の提示方法

メッセージの提示の仕方にも説得力を高める工夫があります。
それが、「一面提示」と「両面提示」です。
一面提示
一面提示は、相手に薦めている行動の良い面やメリットのみを伝える情報提示方法です。
この一面提示は、相手が説得内容についての知識をあまり持ち合わせていなかったり、話が込み入っていない場合に効果を発揮します。
ただ、相手が知識を持っているのに一面提示をしてしまうと
「都合のいいことばかり言って、何か裏があるのではないか」
「自分が得をすることばかり考えているのではないか」
と疑われ、信頼を損ねてしまうことがあります。
それを避けるためにも、説得相手が「何にも分からないんですけど~」といった状態以外の場合には、次に述べる両面提示を使用した方が無難です。
両面提示
行動のメリットと合わせて、デメリットも同時に伝える情報提示方法が両面提示です。
両面提示は、相手が話の内容について知識を有していたり、話が複雑な時に効果を発揮します。
説得者にとって都合が悪い情報まで包み隠さず相手に伝えることで
「あぁ、この人は自分のためではなく私のためにこの話をしてくれているんだなぁ」
「正直に話してくれるなんて好感が持てるなぁ」
と、相手の好意や信頼感を引き出すことが出来るのです。
そうして手に入れた信頼感や好意は、話の内容の如何にかかわらず説得力を高めてくれます。
相手が話の内容についてどれほど知っているか見当がつかない場合には、この両面提示を用いるとよいでしょう。
情報提示のテクニック
こう見ると、一面提示は両面提示に比べるとリスクが高く、あまり有用な方法に思えないかもしれません。
しかし、一面提示は自分にとって都合のいいことばかりを相手に伝えられるので、説得が成功すれば説得者は多くの利益を受け取ることが出来ます。
例えば、中古車の販売において。
車種や走行距離、車検の期限やパーツなどについての知識が全くないお客さんの場合、「人気のお車がこのお値段で!」「毎日のドライブが楽しくなりますよ!」と煽られると「そうなんだ!すごい!」と納得して、割高な値段設定でも購入を決めてしまうことが多々あります。
しかし、逆に「車大好き!知識も豊富!」……なお客さんに一面提示をすると、先ほど述べたように信頼を失ってしまう危険性があります。
そこで、説得には一面提示から入り、話の内容について相手が知識を持っているようなそぶりを見せたら、そこからは両面提示をするように切り替えていく……といったテクニックを用いると、説得者にとって最も利益のある説得や交渉を行うことが出来ます。
ただし、自分にとって都合がいいからと一面提示ばかりを用いるのは、後のトラブルの原因にもなります。
「こんなこと聞いてない!」「話が違うじゃないか!詐欺だ!」といったような事態に陥れば、そこまで積み重ねてきた信頼関係は崩壊してしまいます。
友人やお客さんと長く深い付き合いを望むのなら、やはり両面提示を基本に置いた説得コミュニケーションを行うのがいいでしょう。
恐怖アピール

受け手に、「○○しないと悲惨な結果を招くぞ!」とある種の不安や恐怖感を抱かせるような説得コミュニケーションを「恐怖アピール」と言います。
恐怖や不安という人間の根本的な感情に訴えかける手法であるため、子供など、論理的な思考がまだ十分にできない相手に対して非常に有効です。
小学校や中学校の保健の授業で、喫煙によって真っ黒になった肺の写真や、多量の飲酒によって肥大化した肝臓の写真を見せられたことがあるのではないでしょうか。
悲惨な結果を見せることで、子供たちを喫煙やアルコールから遠ざける……。思い返すと、あれも立派な恐怖アピールだったことが分かるかと思います。
他にも、交通違反をした車の悲惨な事故現場の写真を教習所で見せられた、なんてのも恐怖アピールに当てはまりますね。
恐怖アピールは、喚起される恐怖感が大きいほどその効果が高まります。
しかし、恐怖感があまりにも大きくなってしまうと、逆に効果が薄れてしまうという研究結果もあります。
これは、メッセージの中で示される恐怖感が、実際に自分にも降りかかるかどうかという部分と深く関係してします。
あまりにも突飛な、自分に起こりそうもない恐怖を突きつけられても、それを真に受けることはないということです。
要するに、大事なのは「リアリティー」です。
相手の心を恐怖でブルブル震わせるような恐怖アピールでなければ効果は期待できません。
また、「○○しないと悲惨な結果を招くぞ!」の○○の部分が、確実にその危険を回避してくれると信じられるものでないと、効果は薄くなってしまいます。
現実的な恐怖と合理的な解決手段。
その二つをうまく提示することが、恐怖アピールを成功させるカギです。
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その他の説得テクニック
説得が成功しやすいタイミング
説得や交渉を行うのにも、好ましいタイミングとそうでないタイミングがあります。
一般的に、相手の気分がいい時は説得がしやすいと言われています。
その場の高揚感や心が前のめりになっている時には、説得者の話す内容にも好意的な反応を示しやすくなるのです。
取引先への接待などは、この効果を狙ってのものです。相手が浮かれている場面で「お願いシャチョーさん!」と頼むと、話を受け入れてもらいやすくなります。
また、重役同士の会食の場で重要な決定が行われるのもこれが関係しています。
また、相手の不安が高まっている時にも説得は成功しやすいと言われています。
どうしたらいいか分からない時、身動きが取れずにいる時に投げかけられる言葉というのはありがたいもので、人は自ずとそれを受け入れてしまいます。
あまり良い例ではないですが、カルトや新興宗教の勧誘ではこのテクニックが多く用いられています。相手の心の隙間に入り込んで、言葉巧みに入信させようとするのです。
心が弱っている時にかけられる、甘い言葉や都合のいい言葉には十分注意しましょう。シロネコ書房との約束ですよ!
スリーパー効果 -説得のゴリ押しは厳禁!-
相手がなかなか折れないからとしつこく押し付けがましい説得を行うと、相手はムッとしてしまいます。
自分の選択する自由や意志を侵されたと思って、説得内容に反発するのです。(これを心理的リアクタンスと言います)
時に説得内容と正反対の行動に出てしまうこともありますから、説得におけるゴリ押しは絶対にやめるようにしましょう。
実際の現場では、たった一回の話し合いで説得が成功することなんてそうそうありません。
しかし、その場で説得が成功しなくても焦ることはないのです。
説得したその場ではなく、時間が経過するうちに説得効果が現れてくることがあります。
後になってじわじわと効いてくるこうした効果を、「スリーパー効果」と言います。
当初の説得において、説得者の信憑性の低さからその説得内容が受け入れられなかったとしても、時間と共にそのマイナスの印象が薄れ、説得内容が受け手の中で見直されるのです。
そうなれば向こうの方から「この前の話なんだけど、もう一度聞いてもいいかな」と説得のチャンスをくれるはずです。
果報は寝て待て。説得はじわじわと。そう覚えておきましょう。
まとめ
最後に、効果的な説得者になるためのポイントをおさらいしましょう。
効果的な説得者になるためのまとめ
・説得コミュニケーションの3つの段階(注意⇒理解⇒需要)を意識する。
・説得内容は分かりやすく、結論が明確なものにする。
・「私にもできる!」と思わせる内容にする
・行動によって望ましい結果が得られることをイメージさせる
・情報の専門性と信頼性を有効活用する
・一面提示と両面提示を効果的に使い分ける。
・時には恐怖アピールも有効
・説得を行うのに効果的なタイミングは、相手の気分が良い時 or 不安な時。
・説得にゴリ押しは不要。
こんな感じでしょうか。
今回お話した内容を一度に全て実践しようとすると、これまたごちゃごちゃしてしまうかと思います。
なので、とりあえず最初は説得の3つの基本を覚えてください。
それができたら、話す内容の専門性や信頼性を意識してみたり、恐怖アピールを試してみるなど、段階的にテクニックを磨いていくのがいいかと思います。
色々書いてきましたが、しかし一番大事なのは、やはり一貫して真摯な姿勢で相手に話をすることです。
「他ならぬ、あなたのための話なんです!」と、その心意気や姿勢を伝えることで、相手の心はゆれ動くものですからね。
それでは、今回はこの辺で。
ではでは、またまた。
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