皆さんこんにちは、シロネコ書房(@shironeko_shobo)です。
「別れた彼女のことが忘れられない……」
「ダイエットしたいのに、甘いもののことが頭から離れない……」
往々にして、人は忘れたいと思っていることほど忘れられないものです。
過去に負った傷は、そう簡単に癒えるものではありません。
しかし、人間として、動物として、辛い過去の出来事に縛られていても生存競争にはデメリットしかありません。
一体全体、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。
今回は、そんな「忘れたい」と思う心を心理学していきたいと思います。
忘れたいのに、忘れられない……
「忘れよう、忘れよう……」と思うことは、忘れたい物事について「考えて」しまっていることと同じです。
そして、考えているということは、すなわち強く意識しているということです。当然忘れることはできません。
それどころか、より強く、克明に記憶に刻まれてしまうのです。
シロクマ抑制目録
このことを証明する実験があります。
ウェグナーら(1987)は、人間の記憶と想起との関係について次のような実験を行いました。
シロクマに関する自由想起実験
被験者に「5分間、ぼーっと何かを思い出していてください。ただし、できるだけシロクマにまつわる何かを想起してください」と説明を行う。
次に、被験者グループを2つに分け、以下の二つの環境のもとでそれぞれ自由想起を行ってもらう。
①何の準備もなく、すぐに5分間の自由想起を開始する
②「予定変更です。シロクマについては考えないでください」と、シロクマについて考えないように努力する時間を5分設けてから、5分間の自由想起を開始する。
結果:自由想起中、シロクマについて考えないよう努力した②のグループの方が、①のグループよりも約3倍多くシロクマについて思い出していた。
この実験から、人は「思い出さないように」と意識するほど、逆に物事を強く意識してしまうということが分かります。
こうした現象は、この実験から名前をとって「シロクマ抑制目録」と呼ばれています。
辛いことを忘れるために
意識すればするほど、「忘れたいこと」は心に深くその影を落としていきます。
「覚える」ことは努力で何とかなるものですが、「忘れる」ことに関してはそうはいきません。
何せ、「忘れよう、忘れよう」と努力しても、逆にその分だけ忘れられなくなってしまうからです。
では、一体どうすれば、辛い記憶や暗い過去を忘れ去ることが出来るのでしょうか。
答えは意外と簡単。
「忘れよう」と思うことさえ忘れるような、「別の関心ごとを見つける」です。
これに関連して、少したとえ話をしましょう。
人間の心の中には、1つの小さな舞台があります。
物事を考えるとき、思い出すとき、私たちは心の舞台の上に思いを馳せる対象を据え、スポットライトを当てます。
そしてじっくり、それらを観客席から眺めるのです。
これが、「意識する」ということです。
その心の舞台では、強く、そして長くスポットライトを浴びている物事が評価されます。
それ以外の、スポットライトを当てられない小さな物事は、色あせたり影が薄くなったりした挙句、舞台から消え去っていくのです。
つまり、忘れたい何かがある場合、それを心の舞台に立たせなければいいということになります。
スポットライトを当てず、舞台にも上がらせず、脇で静かに色あせていく小さな物事達の中へ押しやってやればいいのです。
しかし、奴らは目立ちたがり屋ですから、元気と隙があればすぐにでも舞台に立とうとしてきます。
そこで大事なのは、舞台を空けないこと。
圧倒的なカリスマ性を持った、劇場スターのごとき関心ごとを新しく心の中に放り込んでやることで、彼はライトを独占してくれます。
それは新しい恋でも、熱中できる趣味でもなんでもいいのです。とにかく、あなたの心の舞台を独占させてください。
そうなれば、忘れ去るべき辛い過去にもう出る幕はありません。後は時間が、彼をゆっくりと舞台から退場させるでしょう。
その気持ちもわかります。
しかし、忘れ去りたいもの達をいつまでも舞台に立たせ続けることは得策ではないのです。
長く、強くライトを浴びた物事は、いつしかあなたの心の舞台に「歴代スター」の一人として記録されてしまいます。
それはあなた自身に、辛く苦しい経験を深く刻み込んでしまうことと同じなのです。
苦しみは苦しみとして、辛い過去と一緒に置いてくるのが一番です。
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「悪いことをしたくなる」のもシロクマのせい

少し話は変わりますが、「悪いことをしてはいけない!」と言われると余計にしたくなる心理にも、シロクマ抑制目録が関わっています。
「忘れよう」と思うと余計に忘れられなくなるのと同様に、「○○してはいけないんだ!」と思えば思うほど逆に意識してしまい、興味関心が高まるのです。
「アルバイト禁止!」「未成年が喫煙するな!飲酒をするな!」「不純異性交遊禁止!」
主に中高生に投げかけられるこうした言葉は、「悪いことをさせない」という目的においては逆効果です。
ただでさえ好奇心旺盛な年ごろなのに、余計に彼らの興味関心を高めてしまいます。
これを防ぐには、忘れたい物事があるときと同様、意識を別方向へとそらしてやるのが効果的です。
ただ単に禁止するのではなく「こっちの方が面白いぞ!」と別に関心を向けられる物事を用意する。
そうすることで、教育上よろしくない物事から彼らを遠ざけることが出来るのです。
また、自分の興味のあることに対し「ダメだ」と言われると逆にやりたくなってしまう心理としては、他に心理的リアクタンスや認知的不協和が関係しています。
※併せて読みたい

まとめ
「忘れよう」と思うと余計に忘れられない……。
そもそも、簡単に忘れられるようなことなら「忘れよう」と思うことすらないはず……。
そんな「自己言及のパラドクス」みたいな悩みを解決するには、新しい未来について考えることが一番です。
人は過去の失ったものに執着しがちですが、そこから生まれ出るものはほとんどありません。
無理やりにでも意識を別のことに持って行って、考えないようにするのが一番なのです。
大丈夫です。あとは、時間がゆっくり解決してくれますから。
ではでは、またまた。
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